僕が沖縄に来た理由③ 〜 死にたくなかったから 〜

いまはどうかわからないけれど、僕が勤めていた頃のIBMは激務でした。

今で言うところのブラック企業でしょうか? どうなんだろう。

20年近く前は「ブラック企業」という言葉も存在していませんでした。

当たり前のように毎朝6時に起きて仕事に行き、帰りは深夜2時をまわっていました。

終電もないので毎晩先輩と一緒にタクシーで帰宅する毎日。

家に帰り着いて午前3時ごろ、やっと一息つく・・・はずが眠れない。

仕事漬けで頭が切り替わらず気が立ったまま、神経がゆるまないんです。

眠りたいのに・・・疲れているのに・・・寝つけない・・・

しかたがないので面白くもなんともない深夜番組をぼーっと眺めながら、気づけばソファで寝落ち。

朝6時の目覚ましで起き、熱いシャワーを浴びて得意先に直行し、それから深夜までぶっ続けで仕事。その繰り返し。

当時はそれが普通だと思っていました。

気力や気合いでたいていのことはなんとかなると思い、実際、表面上はなんとかなっていました。

自分のなかの大切な何かがすり減っていくのにもあの頃は気づかないで、次から次にやってくるプロジェクトと戦っていました。

その日の朝も、いつものように得意先に直行しました。

「おはようございます!」と先輩に挨拶すると、先輩がボソッと口を開き

「〇〇さん亡くなったよ」

と言うのです。

「それ冗談でも面白くないんですけど」

朝からなに言ってんだと思いながら、僕はたぶん無表情で言葉を返していました。

昨日まで一緒に仕事していた、僕の会社の先輩が死にました。

僕より7つ年上、36歳。

朝、家族が起きてきた時にはベッドで冷たくなっていたとのこと。

先輩の死がほんとうだと知ったとき僕がどんな反応を返したのか、覚えていません。

先輩が入社して10数年。

一番あぶらがのって働きざかりの時期だし、実際に働かせられる時でもあります。

当時の僕は28か29歳。会社で働きはじめて4年くらい経っていました。

お通夜には、先輩達と直属の上司と車を乗り合わせて行きました。

お通夜会場に着くと、亡くなった先輩の奥さんらしき喪服に身をつつんだ女の人が。

そばに小さい子どもが3人いて、喪主であろうその子たちのお母さんは、ちょこちょこ動きまわる子どもたちをせわしなくみていました。

その近くには、おじいちゃんおばあちゃんがいて、36歳で息子を亡くした二人はまだまだ若くて。

「この家族はこれからどうなっちゃうんだろう・・・」

苦しくていたたまれなくなりました。

先輩の死を知らされた朝からずっと、モヤモヤした居心地の悪さを感じていました。

なんなんだ、これは。

焼香をすませてお通夜会場を後にした僕たちは、そのまま上司や同僚たちと一緒に乗り合わせた車で会社に戻ることになりました。

プロジェクトリーダーだった先輩が突然亡くなったことで、チーム内が昨日まで以上に騒然としていたからです。

どんな事情があっても仕事は待っていてはくれませんでした。

夜メシ食ってから会社に戻ろう、と上司にうながされてその辺のファミレスに僕たちは入りました。

ふと、さっきから感じていた違和感がさらにふくらみ、ゾッとする感覚に。

なんでかというと、
ご飯を食べながら先輩や上司が話していたのは、昨日まで一緒に働いていた仲間を偲ぶものではなく、いま抱えている仕事の話ばかりだったことに気づいたからです。

先輩のなきがらに手を合わせてから30分も経っていないのに・・・・

僕たちは一日17時間くらい働いていた。

だからって死んじゃだめだ。
そもそも病気になってもだめだ。
健康管理は仕事ができる以前の、大大大前提だ。

健康管理は仕事以前の問題だ。わかってる。

わかってるけどさ。
でもさ。

ふと我に返って、同じテーブルで食事していた上司や先輩たちをぼんやり眺めた。

俺は何のために働いているんだっけ。

「本当にやりたいこと」のために、自分の時間とパワーをいま使ってるんだろうか?

入社して4年かそこらのペーペーの身だけど、でも、でもさ。

俺ってこんなんだっけ?

ファミレスでコーヒーを飲みながら、違和感で腹が気持ち悪くふくれていくのを感じました。

ついさっき仕事仲間を亡くしたばかりの僕たちは、それぞれが抱える仕事の話ばかりしている。

お世話になったプロジェクトリーダーのお通夜に参列して間もないのに、故人を悼む人間らしい感情はどこにいったのだろう?

朝起きて冷たくなっていた先輩の声や存在は、どこに行ったんだろう。

先輩の「本当にやりたいこと」は、何だったんだろう。

仕事ってなんのためにするんだっけ?

先輩の遺した小さい子どもたちが、喪服姿の奥さんにくっついていた姿が浮かんだ。

また自分に問いかけてみた。

俺は「本当にやりたいこと」のために自分の時間とパワーを使ってるんだろうか?

「違う」

と、僕の内側から声が返ってきた。

それから間もなく会社に辞表を提出しました。

つづく・・・

僕が沖縄に来た理由④ 〜 美味しいベーグルを食べたくて 〜

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